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大阪家庭裁判所 昭和45年(家イ)3229号 審判

申立人 大橋義雄(仮名)

相手方 大橋みよ(仮名)

主文

亡大橋一郎が昭和二七年四月九日届出によつてなした相手方に対する認知は無効であることを確認する。

理由

本件申立理由の要旨はつぎのとおりである。

亡大橋一郎は戸籍上昭和二七年四月九日相手方を認知した旨記載されているが、該認知は真実に反し無効である。すなわち、亡一郎は同二六年春頃相手方の母山下利子と結婚(婚姻の届出は同二七年四月九日)したが、そのさい上記利子の連れ子である相手方の将来を考慮し、一郎が相手方を認知する旨の不実の届出をなし、戸籍にそのように記載された。ところでこのほど相手方は申立人(亡一郎の二男)と結婚することになつたが、戸籍上兄妹関係にあたり民法第七三四条に定める近親婚の制限にふれ、婚姻の届出をすることができない。そこで戸籍の記載を真実の身分関係に合致させたいので主文同旨の審判を求める。

よつて審案するに、当裁判所調停委員会において当事者間に主文同旨の合意が成立し、その原因事実に争いがないし、さらに調査の結果(とくに当事者双方審問のほか、上記大橋利子および申立人の姉宮川日出子各審問の結果)によると、上記申立理由と同旨の実情が認められ、これによると、相手方が亡一郎の子でないこと明らかであつて、当事者間に成立した上記合意は正当である。なお家事審判法第二三条審判の当事者適格を有する者については、これを、当該身分行為の当事者ないし身分関係の主体となる者に限る考え方と、人事訴訟法上の当事者適格を有する者と同様に解する見解とがあるが、当裁判所は、家事審判法第二三条、審判の立法趣旨と同制度運用の実情とにてらし、後者の見解により、本件においては、人事訴訟手続法第二条第二項の類推により、認知無効につき人事訴訟上当事者適格を有する申立人と相手方との間で、上記法条に定める合意を適法になしうると解した。思うに、第二三条審判は手続こそ非公開であるが、家庭裁判所は、当事者間に人事訴訟によらないで申立趣旨どおりの審判を受けることの合意あることを前提として、相当と認めるときは利害関係人を手続に参加させ、さらに必要な事実調査・証拠調を行うほか調査官による調査を十分に活用し、真実の発見に努めるものであるから、第二三条審判の対象となる事項が、同法条によつて処理される場合を、人事訴訟手続によつて処理される場合とくらべて、手続が非公開による点を除き、当事者・利害関係人の訴権その他の権利利益の保障、および当該身分関係ないし身分行為の存否ないし効力が真実に反して確定されてはならないとする公益上の要求の充足に欠けるところがなく、また、手続を非公開にしたことは、当事者に上記の如き合意あることおよび人事事件の秘密性の要請を考慮すれば、是認することができるからである。

以上の次第で、本件申立は正当であるから当事者間に成立した合意に相当する審判をすることとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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